Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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2005.1
大野裕氏の 「認知療法自習帳」をベースにした認知療法アプローチのシングル・システム・デザインによる効果測定

はじめに[要約]

本論は、精神医学者の大野裕氏が開発した「認知療法自習帳」(注1)をベースにした認知療法アプローチのシングル・システム・デザインによる効果測定を行う。以下に、本論の構成について述べる。まず1において、上記認知療法アプローチによる実践評価を行う目的と意義を述べ、次に、介入対象である「現在自分が関っているケース」の概要を記述する。記述項目は、(1)ターゲットとなるクライエント・システム(2)介入の対象とすべき問題 (3)介入目標(4)介入目標の達成基準、以上である。その後、「認知療法自習帳」をベースにした認知療法アプローチによる具体的な介入方法の説明を行う。次に、2において、実際に介入した結果を報告し、3で介入結果の考察と問題提起を行う。

1-1.方法(実践評価の目的と意義)
本論における効果測定の方法は、精神医学者の大野裕氏が開発した「認知療法自習帳」をベースにしたものである。具体的な方法については後ほど述べるが、まず、本論がこの認知療法アプローチを採用する目的と意義について述べる。大野裕氏によれば、「認知療法は、うつ病や不安障害などの精神疾患はもちろんですが、何か困難にぶつかったときに、それに向き合い乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目をあつめている精神療法(カウンセリング)のひとつ」(注2)である。また、朝日新聞のコラム「うつを知る3」(2003.5.17)によれば、「薬の開発をはじめ、うつ病の治療の幅が広がり、回復する人が増えてきた。その一方で、社会復帰してから再発する人もいる。再発しないようにするため、認知療法という方法が注目されている。うつ病になると極端に悲観的な考えを抱き、それが憂鬱な気分を生んで、さらに考え方をゆがめる。そんな時に自然に浮かぶ否定的な考え(自動思考)をワークシートに書いて反証し、合理的に考えられるようにするのが認知療法のねらいだ。こんな報告がある。米ニューヨーク州立大の研究者が、再発を繰り返す人たちに試みたところ、2年後の再発率は2割。面談だけだと7割だったのに比べるとかなり有効だった。日本認知療法学会理事長の大野裕・慶応大教授は「日本のうつ病治療は薬物治療を偏重する傾向がある。認知療法を組み合わせれば効果も上がり再発もかなり抑えられる」」とされる。

このように、誰でも比較的容易に実施できるこの方法は、「うつ」状態の治療のみではなく、現代社会における人間関係の絶え間ない調整にともなって発生するストレスに効果的に対処できる方法だといえる。このストレスは、認知療法の枠組みによれば、後に具体例を挙げる否定的な「自動思考」とそれに伴う否定的な感情・気分の制御困難に由来する。すなわち、こうしたストレスは、現代人なら誰でも陥る可能性のあるセルフコントロールの危機を表現している。ストレスに満ちた現代社会において、さまざまな事例に即して認知療法の効果測定を行うことには十分な意義があると考える。上述のように、認知療法では、このストレスを、「瞬間、瞬間に頭に浮かんでくる考えやイメージ」としての否定的な「自動思考」による負荷がもたらすものと捉えるが、さらに、この「「自動思考」を生み出すもとになっている考え方のクセ」としての「スキーマに働きかけることを最終の目標」とする。(注3) 本論は、こうした特徴を持つ認知療法による介入効果を実際に評価することを目標とする。

1-2.介入対象の概要
 次に、介入対象である「現在自分が関っているケース」の概要を記述する。まず、(1)ターゲットとなるクライエント・システム(以下「クライエント」とする)は、うつ病の診断を受けている男性である。現在、精神科の医院に通院している。(2)介入の対象とすべき問題は、クライエントのうつ病(または「うつ」状態)に由来する否定的な感情・気分の制御困難である。本論では、この否定的な感情・気分の内、特に「怒りの感情」に問題を絞る。(3) 次に、介入目標について述べる。守秘義務を保障し、クライエントの同意を得た上で、クライエントに対する認知療法による介入を行う契約を結ぶ。その上で、クライエントに対して認知療法による介入を実施することにより、クライエントの「怒りの感情」をクライエント自身が「適応的思考」によってより制御可能なものにすること、言い換えれば、クライエントの「怒りの感情」が軽減・緩和することを介入目標とする。(4)介入目標の達成基準は、本論が採用する「認知療法自習帳」をベースとした認知療法アプローチによる介入の結果、後に示す「怒りスケール率」が有意に低下することで達成されたとする。この「怒りスケール率」の点数の推移は、2の「結果」においてグラフ化する。測定結果が、より客観的な基準から見てどの程度の信頼性を持つのかのさらなる検討は今後の課題となる。
1-3.具体的な介入方法
 まず、上述の「怒りスケール率」の自己測定尺度として、以下のものを作成して使用した。
<怒りの度合いを評価する自己測定スケール>
 1 2 3 4 5 6 7 8 9
怒りを認める
が静かな処理 中間      最高の激怒        
次に、大野裕氏が開発した「認知療法自習帳」の「5つのコラム法」(注4)をベースにして、重要事件ログをこの「怒りスケール率」の自己測定スケールと組み合わせたもの(基礎線期用と介入期用それぞれ10日・10回分)を作成して使用した。以下にそれを示す。

<重要事件ログと自己測定スケールを組み合わせたもの>基礎線期用
年月日
1.事件・状況
2.怒りscale率
3.自動思考
(その時に浮かんだ考えやイメージ)
eg.2004.12.08
12.09
12.10
12.13(以下略)
<重要事件ログと自己測定スケールを組み合わせたもの>介入期用
年月日
1.事件・状況
2.自動思考
3.適応的思考
4.怒りscale率
eg.2004.12.22
12.23
12.24(以下略)
<参考:5つのコラム法>
(例)夫が相談にのってくれない主婦のケースの例
状況
小学校2年生の子どもが勉強をしないでゲームばかりしている。そのことを夫に相談したところ、夫は関心のないようなそぶりで「ほっといてもいいんじゃないの」と言って、テレビから目を離そうともしない
⇒動揺したり、つらくなったり、不適切な行動をした時の状況を書き込む
気分
1)腹立たしい(80%)
2)後悔(60%)
3)不安(40%)
⇒気分や感情をひとつの言葉で表現し、強さをパーセンテージで書く
自動思考
1)少しくらい相談にのってくれてもよいのに、無視することはないじゃないか
2)こんな人と結婚するんじゃなかった
3)この子は大きくなってどうなるんだろう。社会人としてきちんとやっていけないんじゃないか
⇒その時に浮かんだ考えやイメージを書き込む
適応的思考
1)疲れているときにはあまり真剣に対応してくれないが、私が強く言えば耳を傾けてくれる。何が大事かを私なりに判断して、重要なものを選んで強く言ってみよう
⇒自動思考に代わる柔軟で現実的な考え方を書き込む
心の変化
1)腹立たしい(50%)
2)後悔(30%)
3)不安(30%)
⇒考え方を変えてみて感情や気持ちがどう変化したかを書く
上記のように、ベースとした大野氏の練習帳との相違点は、本論では問題とする「気分」を「怒りの感情」のみに絞ったことである。従って、練習帳の「気分」及び「心の変化」の欄は、本論では除外され、「怒りscale率」のみに置き換えられている。その上で、基礎線期と介入期とでこの「怒りscale率」のみが測定・評価される。
基礎線期は、クライエントによる自己測定スケールを用いた測定を10日分・10回(厳密に10日連続とはなっていない)にわたって実施し、これら計10回の点数の推移をベースラインとする。次に介入期は、10回目の測定の翌日から、同様に10日分・10回(同じく厳密に10日連続とはなっていない)にわたって実施し、これら計10回の点数の推移をベースラインと比較・評価する。シングル・システム・デザインはABデザインを採用し、上記のように、基礎線期A、介入期Bそれぞれ10日・10回とする。
2.結果
 本論では、以下に「結果」として、クライエントによる記録及び、それをグラフ化したものを示す。なお、スペースの関係上、クライエントによる全介入結果の報告(原資料)は「添付資料」とし、この原資料の記述から特にキーセンテンスとなる記述のみを取捨選択して記載した。同様に、原資料における全ての日の記録について記載してはいない。

<重要事件ログと自己測定スケールを組み合わせたもの>基礎線期記録用
(クライエントとの守秘義務により略)
<重要事件ログと自己測定スケールを組み合わせたもの>介入期記録用
(クライエントとの守秘義務により略)
次に、「怒りスケール率」の点数の推移をグラフ化したものを示す。
   基礎線期(12/8~12.21) 介入期(12.22~1.7)

graph2

3.考察及び問題提起
一般に、「基礎線期は「安定」するまで続けるべき」という「ガイドライン」が承認されている。というのも、「基礎線期のデータをグラフ化した際に安定していなければ、せっかく基礎線測定をしても介入期との比較に役立てることができないからである」。(注5) グラフの基礎線期が「安定している」かどうかの絶対的な基準はないが、上記のケースでは、「怒りスケール率」の点数(以下「点数」とする)の最頻値は7(5回)であり、10回の内7回までが6~9、また8回までが5~9の範囲の値をとっている。また、単純平均値、10%調整平均値共に=6.1であり、5=中間値としたこのスケールにおいては比較的高いレベルでの安定性を持っていると言える。なお、最高値9は12月22日のみなので、全体としては増加傾向にあるとは言えない。
次に、介入期であるが、単純平均値=2.8、10%調整平均値=2.6であり、明らかに基礎線期に比べて介入期における怒りスケール率の低下傾向が読み取れる。なお、12/30~1/3の間は、年末年始の休みであるためクライエントは本認知療法を行っていない。そこで、この休みの後の期間(1/4-1/7)の単純平均値を見ると4.5であり、5=中間値以下ではあるものの、それ以前の期間(12/22-12/29)の単純平均値=1.7とかなりの差があることが分かる。この休みの期間は、本論では、基礎線期としてデータを収集する期間ではなく、あくまでも介入期として位置づけられている。言い換えれば、認知療法による介入とこの休みの期間におけるクライエントの状態(怒りの感情)との因果関係を確定することは不可能である。すなわち、この期間の理論的な位置づけは不可能である。従って、本論においては、休み以後の期間のスケール率の平均値の上昇という結果が、休みの期間に認知療法が行われなかったことによるのかどうかの分析・検討は行わない。
最後に、クライエント自身の記述報告に注目した上で、本認知療法による介入結果に関して問題提起を行う。クライエントによる記述報告において筆者がとくに注目した箇所は上記報告結果において強調してあるが、その注目点は、
1. 介入が行われていない基礎線期においても、クライエントの記述した「自動思考」の中に「適応的思考」と見ることが可能な記述があること。これらは、記述自体としては、介入期における「適応的思考」と明確な差異を持たない。
2. にもかかわらず、そうした記述を行った基礎線期の日の数値は概ね高い水準にとどまっていること。
3. 逆に介入期における「自動思考」の記述において、同日の「適応的思考」と同様に「適応的思考」と見ることが可能な記述があること。しかも、これら両者の記述が同時に行われた12/23と12/24の両日は、共に数値=1 という最低水準になっていること。
以上である。
これらの結果から、本論では、今後の検討課題として以下の仮説を提起する。すなわち、
1.単に第三者から見て「適応的思考」と見える記述を書くのみでは必ずしも「うつ」状態(一般に制御困難な感情)の改善は見られない。
2.むしろ、クライエントが、あらためて<適応的思考>という位置づけのもとに書いて意識化することによってはじめて十分な状態改善の効果が得られる。
以上である。
 もし、これらの理論的仮説が妥当性を持つならば、本論が評価対象とした大野裕氏の認知療法は、その介入効果に関して、実践的有意性のみならず、その理論的有意性も十分持っているといえる。(注6) 言い換えれば、本認知療法において、「適応的思考」という自覚のもとに「書いて意識化すること」は、行動療法という枠組みにおける「行動」にもなっており、本認知療法は「認知行動療法」としても捉えることができると考える。
しかし、さらに以下のような問題が今後の検討課題として残る。上記12/23と12/24の両日は、いずれカトリックの洗礼を予定しているクライエントが、カトリック関係者との社会的支援のネットーワークを形成し、それを強く自覚した時期であると考えられる。この点から、単に本認知療法のみの効果によりクライエントの状態が改善したのではなく、こうした社会資源の効果が大きいのではないかという仮説を立てることができる。この場合、本論の枠組みでは、「介入以外の要因によって問題が解決した可能性を否定する」(注7)ことが困難である。本論で取り上げた認知療法の有効性を今後さらに検証していくと同時に、こういった社会資源の調整というソーシャルワーク実践の重要性も同時に明らかにしていくことが今後の課題となる。(注8)
【注】
(注1) 『こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳』大野裕著
創元社 2003年、『「うつ」を治す』大野裕著 PHP新書2000年を参照。
(注2) 『こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳』大野裕著
創元社 2003年 p.1.
(注3) 同上 p.1-2.
(注4) 本論では、大野氏が先に引用した朝日新聞のコラム「うつを知る3」で発表したものをベースとした。
(注5) 『ソーシャルワーク実践の評価方法 シングル・システム・デザインによる理論と技術』平山尚他著 中央法規出版 2002年p.171.
(注6)統計的有意味性に関しては、今後より厳密な評価が必要である。
(注7) 『ソーシャルワーク実践の評価方法 シングル・システム・デザインによる理論と技術』平山尚他著 中央法規出版 2002年p.176.
(注8)クライエントの教会における活動や署名活動といった社会的活動も、あらためて「適応的思考」という枠組みに位置づけて書くことでその効果を増す可能性がある。
【参考文献】
『こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳』
大野裕著 創元社 2003年
『「うつ」を治す』大野裕著 PHP新書2000年
『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチー』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 2001年
『ソーシャルワーク実践の評価方法 シングル・システム・デザインによる理論と技術』平山尚他著 中央法規出版 2002年
『DSM-4-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版』アメリカ精神医学会
医学書院 2004年
『新版 精神医学事典』加藤正明他編弘文堂 1993年
「精神医学」Vol.30,No.6, 2004.金剛出版 「特集 認知-行動療法の実践的活用」

2004.12
事例分析:認知療法アプローチによる「否定的機能ルール」の明示化及びその
「肯定的機能ルール」への転換
(Modified Version)

はじめに
 以下の事例分析においては、事例として、『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ―』P.60~61「事例2 口論の絶えない夫婦」を選択する。事例分析は、1.介入対象となるクライエント・システム2.介入の対象とすべき問題3.介入目標及び介入方法の順序で論述される。2の問題分析においては、夫婦のコミュニケーションが従属している「否定的機能ルール」を論点として提起する。介入目標及び介入方法の論述は、夫婦のコミュニケーションが従属している「否定的機能ルール」の明示化及びその「肯定的機能ルール」への転換が主な論点となる。(注1)
1.介入対象となるクライエント・システム
本事例において、ワーカーに「相談にきた」クライエントは、「夫32歳、妻30歳の竹島夫妻」(注2)であり、主訴は、「口論が絶えず夫婦関係が悪化していて、このままでは離婚することになりかねない」(p.60)というものである。本事例においては、この夫婦をクライエント・システムとする。
2. 介入の対象とすべき問題
夫は、主訴に関して、「2人の間で口論が絶えない(中略)最近、口論の回数が増えている(中略)2人の関係が悪化している」(p.60)と述べ、「口論の原因」(p.60)に関しては、「これといった原因がない(略)気がつくと口論をしている自分があり、何か自分に落ち度があって妻から責められる立場に置かれているような形になっている」(p.60)と述べている。それに対して妻は、「あなたに落ち度があるから口論になる」(p.60)と述べ、ワーカーが「「あなたに落ち度」という意味は何であるのかと質問すると」、「2人がほとんど同時に口を開き自分の意見を言おうとした」(p.60)。
 上記から、「介入の対象とすべき問題」は、夫婦のコミュニケーションが、自然とお互いに相手を攻撃し合う形になっていることである。この場合、夫婦のコミュニケーションが従属している「否定的機能ルール」の存在が想定される。
3.介入目標及び介入方法
本事例の夫婦には、「一人ひとりが交互に話をすること、相手が話をしている時は黙って話を聞くこと、相手の話の途中で口を挟まないこと」(cf.p.30)というコミュニケーションの「基本的ルール」(p.60)が欠けているという問題があり、まずは、このルールに従った会話のトレーニングを実施する。その上で、介入の主な目標は、「否定的機能ルール」を夫婦のそれぞれが認知することを援助することになる。具体的には、自分自身の考え方の癖として具体的に書き出すなどの方法を取る。以下に、具体的な介入方法を述べる。
(1)これまでの否定的なコミュニケーションの形態を変える必要性を理解させるために、一例として、以下のシートに毎日継続して書き込むように指導する。
(例)妻の例
事件・状況
私が2歳の子どもを保育所に迎えに行く間、これからは週に一度だけでもよいので夫に夕食の支度をして欲しいと夫に相談したところ、夫は私がするのが当然という顔をしてろくに返事もせずにテレビを見ている。
⇒夫に対する怒りや憎しみ、悲しみなどを感じるときの状況を書き込む
浮かんでくる考え
1)ろくに返事すらしないこんな人とはもう相談してもらちがあかない。期待しても無理だしこちらが怒りで病気になりそうだ
2)こんなろくでもない男と結婚するんじゃなかった
⇒そのときに浮かんだ考えやイメージを書き込む
否定的な考え方
⇒浮かんだ考えに関係すると思われる自分自身の考え方の癖を書き込む(否定的機能ルールの明示化)
「夫婦関係における口論は夫に落ち度があるので夫の話をよく聞く必要はなく、むしろ論破すべきである」
肯定的な考え方
⇒否定的な考え方に代わる柔軟な考え方を書き込む。また、その際、望ましい夫婦間のルールにしたいと思うものを書き込む(否定的機能ルールの肯定的機能ルールへの転換)
「ただ一方的に夫を責めるだけではなく、自分自身の状況をもっと分かるように夫に伝えて、お互いにどのようにして家事・育児のシェアができるのか話し合うよう要求してみよう」(注3)

年月日 1.事件・状況 2.浮かんでくる考え 3.否定的な考え方
4.肯定的な考え方

(2)上記シートに沿って肯定的なコミュニケーションが習慣づけられたなら、「私はあなたに~を望む」という形式における具体的な相手への要求を、家族関係の改善を視野に入れた話し合いのテーマとするよう援助する。例えば、妻の「自分は夫と同じように働いているのに夫の何倍かの負担を抱えている(中略)同じ会社に勤務している」(p.60)にもかかわらず、自分のみが一方的に家事・育児を押し付けられている、また「それに対して夫は当然という顔をしていて」(p.60)家事・育児に協力せず、自分に対する共感を持たない無理解・無関心な夫のあり方への不満や苛立ち、また不安感や絶望感を上記シートに沿って表出させながら、こうした問題に対する夫の否認というポジションを、家事や育児を共有するポジションへと転換させるよう働きかける。
(3)夫婦のコミュニケーションの向上や家事・育児のシェアを実現する上でさらに支援が必要である場合には、適当な社会資源を紹介し提供する。一例として、地域において夫婦で参加できるような育児教室等のプログラムを持つ子育て支援のNPO・セルフヘルプグループ等への参加が考えられる。
【注】
(注1) 上記「はじめに」及び本論の記述に関して、『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年p106-114を参照。
(注2) 『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 p.60.なお、以下の記述において、上記テキストからの引用は、引用符の後に引用頁を括弧内に記す。
(注3)「肯定的機能ルール」の例については、(注2)前掲書のp.108-109を参照。
【参考文献】
『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 1998.
『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年
『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 1998.
『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年
『家族療法の基礎』フィリップ・バーカー著 金剛出版 1993年
『家族と家族療法』サルバドール・ミニューチン著 誠信書房 1983年
『家族療法』ジェイ・ヘイリー著 川島書店1985年
『精神の生態学(改訂第二版)』グレゴリー・ベイトソン 新思索社 2000年
 

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